column 2019.10.4

「バンダイのプログラム教材 ― 物語性で客引き込む(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

(C)創通・サンライズ

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 物語の一員になる。それが顧客に新たな価値を提供する可能性がある。好例が科学や技術などを学ぶSTEM教育向けに、バンダイが来年3月発売で10月11日より受注を開始する、ホビーロボットのプログラミング教材「ジオニックテクニクス」=写真=のケースだ。

 ジオニック社は、アニメ「機動戦士ガンダム」の世界に出てくるモビルスーツ(人型重機)の「ザク」を初めて開発した架空企業だ。同社が、今後の宇宙世紀において、人類の苦役を軽減するためにモビルスーツが重要になると考え、若者たちが、その技術者になれるようロボット技術を最初に学べる公式教材を開発したという設定である。

 まず、実際のサイズの約60分の1となる30センチメートルのザクを自ら組み立てることから始まり、ロボティクス(ロボット工学)の基礎や、プログラミングの概要を理解し、スマホで二足歩行や、多様な動きをプログラミングし、ハンガーデッキ(専用台座)でその動きを確認し、動かしていく。形状の制約を理解し、うまく稼働させるのが重要だ。

 さらに、マスタースレーブにより人間の動きと同期することもできる。ザクは、バリエーションが豊富であり、新たなパーツの追加など、ユーザーの想像力に制限をかけない。ユーザーは物語の世界に入り込み遊びつつ、プログラミングについて学習できる。

 新規事業室の原田真史デピュティゼネラルマネージャーは、「アニメのコンテンツと教材が統合され、公式の教育を受けるという新たな体験価値となる」と説明する。「バンダイの新規事業として、当社が展開してきた人気コンテンツのガンダムに、今までのガンプラ(プラモデル)やフィギュアというリアリティー追求の価値から、ロボティックスの学習という新しい価値を提供できることが意義」という。

 皆さんの企業でも、単に製品・サービスを提供するのではなく、自社の資源の中から、ユーザーが物語の一員となるコンテンツを取り上げ、製品・サービスの利用に意味を持たせることは重要であろう。これこそ、他社が模倣しにくく差別化できるものになるだろう。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2019)「バンダイのプログラム教材 ― 物語性で客引き込む(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2019年10月4日付け、p.11.