column 2019.8.23

「花王のヘアケア ― 個別仕様に新発想(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 マスカスタマイゼーションの意義。カスタマイゼーション(個別仕様)により顧客満足を高めつつ、マスプロダクション(大量生産)による効率化を両立しようとする手法だ。

 自動車やパソコン、住宅のオプション注文をイメージすると分かりやすいだろう。完全な個別仕様でなくても、その発想は新市場を創造する可能性を持つ。好例が、今年5月に発売された花王のヘアケア商品の「アンドアンド」のケースだ。

 ヘアケア市場では、800円以上のプレミアム価格が市場の約半分を占め、その中で1400円以上のハイプレミアムも拡大していた。こうした市場はこだわりのある商品が重要で、ファッションもコスメも、ネイルも、自分らしく、気分に応じてコーディネートする人が増え、自分にぴったりなものを選びたいという潮流があった。

 だがヘアケア市場ではシャンプーとリンスは同じ香り同じデザインのパッケージが一般的で、訴求ポイントも各商品横並びで、違いがわかりにくいという状況であった。

 そこで、アンドアンドでは、気分や香り、デザインで、シャンプーとトリートメントを自由に組み合わせて選ぶセルフコーディネートできることが考えられた。シャンプーとトリートメントの利用時に感じる快適な気分を、感性科学に基づいて分析し、その快適な気分を感じる香りを天然由来のアロマによって新たに調合した。

 その結果、シャンプーでは、「気ままに」「静かに」「ゆったりと」の3種類、トリートメントでは「はしゃぐ」「思いたつ」「ときめく」の3種類が開発され、そのパッケージも、マーブル調や透明など全6種類が異なるデザインになった=写真。

 これらを組み合わせることで、9通りのコーディネートを楽しめる。ゆったりとときめくが一番人気で、その組み合わせた言葉も、自分らしいストーリーを連想させる。

 本ケースは、カスタマイズをした商品を開発しただけでなく、それらの組み合わせを可能にしたことが、より個別仕様に近づけたといえる。こうした発想は、従来マスカスタマイゼーションができなかった商品でも、参考になるだろう。

(法政大学経営学部教授)


西川英彦(2019)「花王のヘアケア ― 個別仕様に新発想(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2019年8月23日付け、p.11.