column 2019.7.5

「消費者インサイト ― USJに見る好例(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 消費者インサイトの意義。消費者自身も気づいていないニーズで、企業が洞察し見つけだすものだ。こうしたインサイトを巧みに捉えれば、業績を向上させる可能性を持つ。その好例が、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)」のケースだ。

 USJのクリスマスには、世界最高と言われるツリーやイルミネーション、ショーがあり、恋人たちに人気を博していた。2010年に、より多くの入場客を得るために、ターゲットを子供を持つ家族に広げ、そのインサイトを見直すことになった。

 両親のインサイトとして「自分の子供はいつかサンタクロースを信じなくなる日が来る。だからこそ今できる最高のクリスマスで思い出を作ってあげたい」と設定した。

 このインサイトから、クリスマスツリーの前で父親に娘が笑顔をみせるCMが生まれた。母親目線で2人を描くことで視聴者が自らの家族を見ているようにして「自分ごと化」した。誰でも共感できるインサイトで、若い女性も動かし入場客を大きく増やした。

 11年には、ハロウィーンホラーナイトのターゲットやインサイトが見直された。ホラーナイトは、米国ユニバーサル・スタジオから導入され、ゾンビが園内を歩き回るものであった。当時は、現在ほどハロウィーンがメジャーではなく、ホラー好きの一部の人々に限定されていた。

 若い女性のインサイトとして「ハロウィーンで叫ぶのは女性らしく魅力だけど、なんとなく恥ずかしい。本当は、皆で叫んで自分をさらけ出すことを楽しみたい」と設定した。こうして、皆で盛り上がるのが好きな10代や独身女性のものへ転換させた=写真。それまで盛り上がらなかった9~10月を一番入場者数の多い月に変えた。

 同社の山本歩マーケティング部長は、「インサイトは、単純に得られたニーズではなく、本当のニーズは何かを皆で考える中で、クリエイティビティーを発揮して発見し、作り上げるもの」という。

 皆さんの商品やサービスについても、あたり前だと思っているターゲットやニーズを再考してみるのはどうだろうか。

(法政大学経営学部教授)


西川英彦(2019)「消費者インサイト―USJに見る好例(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2019年7月5日付け、p.11.