column 2014.11.20

「マーケティングへの関心 ― 研究と実務、交流の仕掛け:日本マーケティング学会(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 プラットフォームが、新しい研究を創造する可能性を持つ。その好例が、日本マーケティング学会(会長、石井淳蔵・流通科学大学学長)だ。2012年の設立からわずか2年ほどで会員数は1600人を超えるまでとなった。会員のうち研究者は3割、企業のマーケティング部門担当者などの実務家が7割を占める。

 「顧客を知り深く理解することで顧客のニーズに合った製品やサービスを作り、製品がおのずと売れるようにすること」。かのピーター・ドラッカーはマーケティングをこう定義する。

 学会がめざすのは、国内の研究者と実務家が、世界トップクラスのマーケティング力を培っていくための探求と創発の場の実現だ。それだけに、新しい研究を生み出すための仕掛けづくりにはこだわっている。

 カギを握るのが、多様な研究活動を支えるネット上の専用サイトを中心としたプラットフォームだ。

 サイトでは、マーケティングに関心さえあれば、誰でもすぐに入会できる。ほかにも、イベントの告知や申し込み、決裁や領収書発行、学会誌のダウンロードも可能だ。メールマガジンの発行や、交流サイト(SNS)にも連動している。

 このように学会の情報発信や事務作業は集中処理されるため、学会員は研究に専念できるというわけだ。

 さらに近く、サイト上に「ワーキングペーパー」という仕組みも立ち上がる。学会員であれば自由に論文などを掲載できるもので、誰もが様々な研究結果や実践報告などを確認できる。

 こうしたプラットフォームに支えられ、「リサーチプロジェクト」と呼ばれる様々なテーマごとの研究会が活発に催されている。学会員5人で立ち上げることができる。ただし、実務家と研究者の混成が条件だ。

 他にも「サロン」と呼ぶ少人数の気軽な研究会もある。平日の夜にゲストを招き、くつろぎながら参加者全体で対話するというもので、学会活動に参加しやすいように工夫されている。

 最大の仕掛けは年1回開催される「カンファレンス」だ。ゲストの基調講演をはじめ、学会員の最新の研究報告や、聞き手と対話しながら進めるポスターセッション=写真は昨年=など、まさに探求と創発の渦のような場だ。

 23日には「マーケティング戦略論の過去・現在・未来」とのテーマで、今年のカンファレンスが都内の早稲田大学で開かれる。実践に役立つ研究の世界を体感してはいかがだろう。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2014)「マーケティングへの関心 ― 研究と実務、交流の仕掛け」『日経産業新聞』2014年11月20日 付け、p.15