paper 2017.9.29

巻頭言&編集後記「マーケティング・リサーチプロジェクト」『マーケティングジャーナル』

巻頭言

 「探求と創発。挑戦しつづけることを,やめてはいけない。マーケティングが生む答えは,日々,変わりつづけるものだから。創発し,磨きあうことを, 避けてはいけない。研究者と実務者,それぞれがそれぞれのMarketing Heart を持ち寄り,世界トップクラスのマーケティング力を培っていく。そんなビジョンを全員が描ける場所が,必要だと思う。私たちは,日本マーケティング学会です。」(日本マーケティング学会ビジョン)

 これは,2012 年設立の際に創られた学会のビジョンである。つまり,学会設立の狙いは,研究者と実務家が交流できる「探求と創発の場」の提供だ。こうした場を絶えず,提供し続けてきたのが,「マーケティング・リサーチプロジェクト」(以下,リサーチプロジェクト)であるといっても,過言ではないだろう。

 リサーチプロジェクトの目的として挙げられる,以下の3 点を見ても,その役割を担っていることは明白だ。第1 に,多様な研究テーマを会員から募ることで,会員ニーズに沿った研究を行うとともに,本学会の研究領域の拡大を図る。第2 に,研究成果を広く学会員に公開することで,その質的向上を図るとともに,同じテーマに関心を有する会員間の相互交流を促進する。第3 に,学会の研究部会として位置づけることで,研究のモチベーションを高めるとともに,外部資金獲得等の一助とする。

 マーケティングに関するテーマを掲げた,大学教員であるリーダーを中心にした学会員5 名以上の研究グループであれば,常任理事会の承認のもと立ち上げることができる。ただし,研究者と実務家の混成が条件である。学会員に向けて,年1 回以上の研究報告会の開催が義務となる。

 こうしたリサーチプロジェクトは,2012 年度(3 月末決算)末に試験的にはじまり,2013年度より本格的に稼働した。現在23もの研究会があり,流通や消費者行動,ブランドといった領域だけでなく,現実のマーケティング実践に呼応するように,ソーシャルメディア,地域,医療,スポーツ,農業,デザイン, 共創,AI(人工知能),知財など多様な領域にまで広がり,マーケティング研究の裾野を拡大している

 各リサーチプロジェクトは,自由に開催できる「研究報告会」をはじめ,マー ケティングカンフェレンスにおいて開催できる「リサーチプロジェクトセッション」(以下,リサプロセッション)を,それぞれ多数実施してきた。2016 年度は,研究報告会が52 回,そしてリサプロセッションが16 回,計68 回もの研究会が開催された(図− 1)。累計では,研究報告会が137 回,そしてリサプロセッションが42 回,計179 回もの研究会が開催された。研究報告会には述べ 3,036名,そしてリサプロセッションには述べ2,119名,計述べ5,155名が参加した。

 さらに,2016 年4 月より設置された「リサーチプロジェクトリーダー会議」 において,「なかなか日付が合わずに参加できない」,あるいは「別のプロジェ クトにも参加してみたいがなかなか参加できない」,「秋に学会のカンファレンスが開催されるが,春にも学会員が集まる機会をもちたい」という学会員の声を受け,リサーチプロジェクトの合同研究会が検討され,2017 年3 月に「春の リサプロ祭り」という名称で,10 もの研究報告会が同時に開催され,240 名も の学会員を呼び込んだ。

 こうしたリサーチプロジェクトによる自主的な研究活動を,学会は積極的に サポートしてきた。ひとつは,学会サイト( http://www.j-mac.or.jp/ )を中 心としたプラットフォームによる支援である。研究報告会の告知や申し込み, 決裁や領収書発行を行うだけでなく,メールマガジンの発行や,Facebook で の告知も連動して行う。このように学会の情報発信や事務作業は集中処理され るため,リサーチプロジェクトは研究に専念できるというわけだ。

 もうひとつは,カンファレンスにおいてリサプロセッションを開催するリサーチプロジェクトに対して,年10 万円の助成金を拠出するという支援だ。各プロジェクトは,ゲストスピーカーの招待や研究報告会の運営費などの研究資金として,それを利用できる。

 以上のように,リサーチプロジェクトは,学会のサポートを受けつつ,自主 的に「探求と創発の場」を継続的に提供してきた。そこで,本号では,こうし たリサーチプロジェクトの研究成果を広く共有するため,「マーケティグ・リ サーチプロジェクト」というテーマで特集を組む。5 つのリサーチプロジェク トによって,理論研究,事例研究,実証研究などリサーチプロジェクトに関連 した研究論文が発表される。こうした論文を通して,各研究テーマでの実践や 理論についての理解が深まる共に,リサーチプロジェクトの意義を知ることが できるであろう。

 加えて,そのテーマに関心をもたれたら,ぜひ研究報告会に参加頂き,さらなる「探求と創発」を実践頂きたい。学会ビジョンで宣言したように,我々は 「挑戦しつづけることを,やめてはいけない」,そして「創発し,磨きあうことを, 避けてはいけない」のだから。

編集後期

 本号は,「マーケティング・リサーチプロジェ クト」という特集テーマで,5つのリサーチプロ ジェクトの研究成果を取り上げた。まず村松論 文は,「価値共創型マーケティング研究会」として, プロジェクト名でもある「価値共創マーケティン グ」概念を定義し,その事例を提示し理解を深める。田村論文は,「質的リサーチ研究会」として, KJ法の後工程として,有効な発想法のツールの提示と,その有効性を示す。高橋・本庄論文は,「女 性マーケティング研究会」として,「女性視点」 を整理し,その事例を取り上げ考察する。川上・ 池上論文は,「マーケティングと新市場創造研究 会」として,ブルー・オーシャン戦略を援用し,「ダ イナミック・ブルー・オーシャン戦略」という新たな理論を提示する。片野・石田論文では,「ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究会」として, 動画共有サイトYouTubeにおける音 楽コンテンツの市場受容と普及について,探索 的に考察する。なお,大竹論文は,特集テーマではないが,ブランドマネジメントに関する新た な視点を提示する優れた自由投稿論文である。
 
 最後に,一言述べたい。実はリサーチプロジェクトは,編者自身も関わった「日本マーケティング学会設立準備委員会」の議論から生まれ,推 進してきたものである。当初の予想を超える大きな成果を上げたことは,実に感慨深い(「巻頭言」 参照)。学会員の皆さんの協力で,さらに質量ともに向上していくことを切に願う。

西川英彦(2017)「マーケティング・リサーチプロジェクト」『マーケティングジャーナル』Vol.37 No.2、pp.2-5、p.161.

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