column 2017.11.17

「アンケート ― コースターで遊び心:スプリングバレーブルワリー(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 レストランなどに設置したアンケート用紙。顧客にはなかなかハードルが高いのではないだろうか。だが、場面にあった遊び心のあるフォーマットを用意すれば気軽に本音が聞け、新たな関係を創造する可能性を持つ。その好例がキリンのグループ会社「スプリングバレーブルワリー」(東京・渋谷)だ。

 同社はクラフトビールの醸造設備や飲食スペースを併設した専用施設「スプリングバレーブルワリー」を2015年春に横浜市にある横浜工場、東京の代官山、今年9月に京都市内でオープン。顧客はガラスを通して醸造工程を見たり、そのガイドを受けたりしつつ、同ブランドの6種類の定番品や、ホップや酵母を変えた年間40種類の期間限定ビールを料理と一緒に楽しめる。ビールの醸造家はキリンビールの開発者でもあり、メニューなどで紹介される。

 コースターには「あなたの感想を共有してね」と英語で書かれ、矢印が裏面を促す。裏返すと英語で「私はここに住みたい」や、映画の有名なフレーズである「また戻ってくる」「ヒューストン、問題が発生した」という3段階の評価。その下には「もっと伝えて!」と自由回答欄がある。とにかくユニークだ。

 吉野桜子マーケティングマネージャーは「デザイナーと話の中で、アンケート用紙だとかしこまってしまうし、使ったら捨てるコースターがもったいないこともあって、その裏に気軽に書いてもらうくらいが、面白いのではないかと考えた」という。毎月、ビールや食事、サービスに関する評価や感想など約300もの声が集まる=写真。イラストで気持ちを表現する顧客もいて、愛着も醸造されている。これらは開発や改良に生かされる。

 さらに声はキリンビールにも生かされる。同社の発起人3人が兼任だからだ。社長は発泡酒「淡麗」などの開発者であるキリンビール企画部主管。醸造責任者はマーケティング部の部長でマスターブリュワー、そして吉野氏も両部を兼任。まさに開発のためのラボのような子会社だ。アンケートで愛着を感じてもらえたりすることは重要だ。他業種でも再考する意義はあるだろう。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2017)「アンケート ― コースターで遊び心(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2017年11月17日付け、p.11.