column 2017.10.5

「『百人ビール・ラボ社 』― ビール文化、顧客とシェア(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 メーカーが顧客と新製品開発を目的としたオンラインコミュニティーを維持していくのは、なかなか難しい。なぜなら、新製品開発には時間がかかり、同時に複数の新製品開発に対応できないため、常時の交流が難しいからだ。だが、オンラインだけでなく、オフラインまで広げて、開発の基盤となる価値をより深く共有していくことが、コミュニティーを活性化させる可能性を持つ。その好例がサッポロビールの運営する「百人ビール・ラボ社」だ。

 ラボ社はオンライン上で、1600人を超えるビール愛好家の集まる仮想会社だ。フェイスブックのアカウントがあれば、誰でも参加でき、ラボ社の社員になれる。今年4月、ラボ社社員はサッポロビールの新入社員の懇親会に参加した。突然の呼びかけにもかかわらず、約30人が自費で参加した。突然となったのは、実は昨年末にラボ社は休眠したからだ。

 2012年にビール愛好家の意見をもとに、ビールの新商品開発を目指し、フェイスブック上に「百人ビール・ラボ」を開設した。

 15年にオンライン上にラボ社が創設された。愛好家は社員となり、商品企画部や広告宣伝部、人事部、総務部に所属し、貢献に応じて昇進。こうして4つの新しいビールを開発し、完売するなど好評を博した。

 だが定番になっているわけではない。社内でもそもそも何のために実施しているのかという議論になり、活動を一旦休止した。再検討し、単に開発だけでなく、オフラインの場までビール文化を広める活動に変更した。再開の第1弾が、この新入社員の懇親会だ。

 ラボ社社員も再入社した形で全員が新人となり、「新入社員」の肩書が入った限定名刺を受け取った。リアル新入社員と名刺交換をしながら、交流を深めた=写真。こうした体験が価値を共有していく。

 外食部を新たに設置し、ビールを提供する飲食店も巻き込んだ。「作り手、飲み手、注ぎ手という三者がビールについて語り合える場をつくりたかった」と、サッポロのマーケティング開発部長の古林秀彦氏は説明する。

 初の外食部会は、6月に札幌市内のビアバーで開催。店主が注ぎの極意を語り、サッポロ社員、ラボ社社員もビールへの思いを語った。8月には東京都で行われた。10月には兵庫県の飲食店で開催される。こうした価値を共有した上での新製品開発は、より期待できるだろう。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2017)「『百人ビール・ラボ社 』― ビール文化、顧客とシェア(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2017年8月24日付け、p.15.