column 2017.7.3

「事業の定義(下) ― 『顧客機能』保ち変化に対応:シーブリーズ(日経MJヒット塾)」

 「事業の定義」の主体的選択が、新市場創造の可能性をもつ。「誰に(顧客層)、何を(顧客機能)、どのように(技術)」という3つの軸で、「自らの事業とは何か」を定めていく意義だ。先週に続いて、このテーマをみていこう。今週は、資生堂のロングセラー・ブランドの「シーブリーズ」を取り上げる。

 同製品は、1902年に米国東海岸にて誕生。顧客層は「家族」、顧客機能はひげそりや化粧落とし後のスキンケア、ニキビ予防という「肌のトラブルの解消」技術は、現在と同じ「ハッカ油など天然由来の成分をもつスキンケアローション」と整理できるだろう。

 日本には69年に上陸。競合製品がない中、同じく米国から上陸したコカ・コーラやマクドナルドと共に市場で注目された。米国と同じ事業の定義で、売り出された。

 こうした中、サーフィンなどのマリンスポーツを愛好する若者から人気を博した。82年に、技術は変えず、顧客層は「家族」から「若者」へと変更、顧客機能は日焼け後の肌の火照りを爽快に鎮めるという「日焼けケア」に焦点をあてた。若者に人気のタレントを起用し、夏や海をイメージするCMを大量投下し、夏の定番ブランドとして成長。90年代には、シャンプーや、ボディーソープなどトイレタリー全般の技術に広がった。

 2000年に資生堂のブランドとなり、事業の定義や、夏を中心にした広告を継続したが、売り上げは右肩下がりだった。

 そのため、顧客層の行動や嗜好を徹底的に調査。毎年定期的に実施していた時系列調査を改めて分析した。80%以上の人がシーブリーズのイメージを夏や海と答える一方、若者の75%の人が海やプールに行く回数が減った、もしくは行かないという結果であった。

 そこで、使用シーンを海から街へ大きく変更。主たる顧客層は高校生とりわけ流行を生み出す女子高生、顧客機能は「汗ケア」、技術は「肌をサラサラにするメントール入りの制汗剤」に大きく変更した。

 パッケージも高校生を狙ったカラフルなボトルにし香りも増やした。CMもハワイ撮影や大物タレントの起用をやめ、高校生の日常に近い学校での撮影や、共感を得やすい等身大のタレントにした。さらに、既存顧客層のため、従来の定番パッケージも残し、「日焼けケア」という顧客機能も維持した。その結果、売り上げは回復。

 同ブランドの顧客機能がうまく拡張できたのは、「肌を爽快にする」という本質的な顧客機能が、基盤にあったからであろう。だが、神話的ブランドには、基盤となる顧客機能などないという批判もある。

 最後に、2週のケースから事業の定義を主体的に選択する意義をまとめよう。

 第1に、3つの軸が整合的であるかを、絶えず見直すことができることであろう。ケースのように、一貫した優れた戦略の実行が可能となる。

 第2に、競合と比べて差別化されたモデルであるかを確認できることだ。競合の3つの軸と比較すると、より明確であろう。

 第3に、既存の3つの軸の関連から生まれる新たな顧客層や顧客機能、代替技術を自由に選択できることだ。これこそが、新市場創造をもたらす源泉となる。

キーワードプラス

 【基盤なき顧客機能】ダグラスB・ホルトは「ブランドが神話になる日」(ランダムハウス講談社)において、コカ・コーラやハーレー・ダビッドソンなどのブランドに、何か本質的顧客機能という強固な基盤があったのではなく、消費文化の変化に呼応した顧客機能の変化があったからこそ、ロングセラー化したと指摘する。

西川英彦(2017)「事業の定義(下)法政大学経営学部教授西川英彦氏 ― 「顧客機能」保ち変化に対応(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2017年7月3日付け、p.2.