column 2017.5.25

「ハーゲンハート ― 顧客の発信力、強い味方:ハーゲンダッツ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 消費経験のうまい取り入れが、新しい顧客価値の創造の可能性を持つ。その好例がハーゲンダッツジャパン(東京・目黒)の「ハーゲンハート」のケースだ。アイスクリーム「ハーゲンダッツ ミニカップ」の内蓋を開けると、現れることがあるハート形のことだ。

 2016年2月、同社はブランドの本質的価値を顧客に長期的に伝えるため、「幸せだけで、できている」というメッセージを発信。「こだわりをもって作った商品を理性的にではなく、情緒や感性に訴えられるようなメッセージを考えた」と同社上席執行役員の坂東佳子氏は狙いを語る。

 こうした中、消費者が以前よりハート形の画像をSNSに投稿していることを知っていた担当者は、メッセージと一致すると感じ、「幸せのハーゲンハート探し」と題した特設サイトを同年7月に立ち上げた。

 開設にあたり、担当者らは10日かけてミニカップ約千個を実際に開け、ハートを11種類に整理。その出現率を調べた。形はアイスクリームの原液を冷凍する際に原液と内蓋の間の空気の位置などで偶然に決まる。

 正しいハート形に見える「クリアハート」の出現率はわずか0.2%。これを見つけた人は、こころ満たされる穏やかな日々が過ごせそうな予感と示唆する。笑っているように見える「スマイルハート」が、最も出現率が高く26.5%。思わず素敵な出来事が訪れると説明。もはやハートとは言えない丸いふくらみが浮かぶように見える形も「心にぽっかり穴ハート」とハートに結びつける。左右にきっぱり分かれた形も「グッバイハート」と名付け、新しい一歩を踏み出せるチャンスと激励する。

 サイトには「アイスクリームがつくられるとき、偶然に生まれるものだから、出会えた人はラッキーとも言われています。あなたが見つけたハートは、どんな幸せをつれてきてくれるでしょう?」と記した上で、消費者に見つけたら、「#ハーゲンハート」をつけて、ツイッターや、インスタグラムでシェアして欲しいと投げかけた。

 消費者からは画像付きの投稿がアップされ、10万リツイートや、20万いいね!を超えるものも現れた。このように消費経験を取り入れ、新しい大きな成果につながった。

 重要なのは消費経験の発見だけではなく、メッセージの存在だ。それが消費者の投稿という偶然の産物に意味を見いだし、採用できたように見えるからだ。(法政大学経営学部教授)

「ハーゲンハート ― 顧客の発信力、強い味方(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2017年5月25日付け、p.15.