media 2017.1.1

「人脈とネットを生かして消費者目線での商品開発を推進」『法政』

人脈とネットを生かして消費者目線での商品開発を推進

 持ち前の好奇心と行動力で培った幅広い人脈を生かし、ユーザー視点での商品企画・開発などに携わる

 西川英彦教授。「楽しいをカタチにする」実践マーケティングを手掛けています。

出会いの機会を見逃さず、受けた刺激を自分の糧にする

 消費者の発想によって商品を開発するユーザー・イノベーションや、インターネットを活用したデジタルマーケティングを専攻して研究しています。

 企業でさまざまな商品の開発に携わってきました。その経験から、ゼミの学生たちには調査から企画、商品化に至るまでのプロセスを実践的に学ぶことを促しています。

 例えば、2年次には「無印良品」の商品提案を行い、3年次には26大学31ゼミの学生が競い合う商品企画プロジェクト、通称「Sカレ」に挑戦することが恒例化しています。

 2015年度のSカレでは、ゼミ内の1チームが「介護福祉に役立つマグネット商品」というテーマの商品企画に取り組んだ結果、プラン優勝を勝ち取り商品化が決まりました。今年度も「筆記具のキットパスで『楽がき文化』の創造」というテーマに取り組んだチームがコンセプト・テーマで1位となるなど頑張っていました。

 質のいいアウトプットをするためには、インプットが欠かせません。そこで、イベントの開催やミーティングなどを通じて、第一線で活躍する人と会える機会があれば、ゼミ生も連れて行くようにしています。プロの意見を聞いて、いい刺激を受けるには、またとないチャンスだからです。

 その真価に、学生たちが自ら気付いてくれるといいのですが、「一緒に行きますか」と呼び掛けても遠慮したり、行動をためらったりする姿を見ると「もったいない」と感じますね。

 社会に出た後では、お互い仕事人の立場になるので、対価を払って依頼しなければ、会って話を聞いたり、気軽に意見交換したり、ましてや評価コメントを得ることなどできなくなります。学生の今だから享受できる好機を逃さずに、貪欲に食らいついて、自分の糧にしてほしいと思っています。

主体的に考え、自発的に動くことを後押し

 私のゼミでは、四つの係に役割を分担し、4年生がリーダーになって指示を出しながら、ほとんどの活動を学生主体で決めています。

 例えば、ゼミの運営に関する方針や日常的な予定管理は、投票で各学年男女一人ずつ選出したゼミ長チームが、先頭に立って決めています。

 また、行事関連の統括はイベントチームが担当。海外に行くと決めている夏の合宿では、現地の企業インタビューを行います。訪問先は私のつながりから紹介することも多いですが、渡航の手配やスケジュール管理は、すべて学生たちが行います。今年は香港を訪れて、無印良品香港支社や輸入品を多く取り扱う高級スーパー、日系の金融機関など3社を訪問しました。

 ゼミでの私はサポート役です。社会とつながるきっかけを用意したり、方向性を見つける手助けをしたりしながら、学生たちの背中を押しています。

 誰かに言われるがまま行動するよりも、自分の頭で考えて動いた方が、経験値は上がります。何より、楽しんで行動できます。誰かの研究の手伝いをするというスタンスではなく、自らが持つ力で体現してほしいのです。

 学生のうちは、失敗しても取り返しはつくので、臆することなく、一人一人が主役になって、無謀と思われるくらいの積極性を発揮してくれることを期待しています。

法政の実践知を社会で花開かせる

 ユーザー・イノベーションから発展して、近ごろは「共創」と呼ばれるコ・クリエーションの分野に研究を進めています。人と語り合い、ワイワイガヤガヤと意見を交わすことで、新しいアイデアを思いついたり、コミュニケーションが広がって新しい関係が築かれていくことに興味は尽きません。

 「楽しい」をカタチにして、ビジネスとして成り立たせるには知恵が必要です。それは、マーケティング理論に基づいた消費者行動の予測だったり、統計データの分析から市場を読み解く知恵や知識であったりします。

 大学は、このような実践に生かせる理論を習得するのに最適な場所です。社会に出てからリサーチや統計の手法を改めて学ぼうとしても、企業では教えてくれない場合も多いでしょう。

 法政が大学憲章でも掲げた「実践知」を具現化する意味でも、授業で学んだマーケティング理論を実践し、大学での学びが、社会でも役に立つことを実感してほしいですね。

〈実践知エピソード〉知的好奇心が異種の情報を組み合わせ、イノベーションを生む

 私が目指し、大切にしたいことの一つが「知的好奇心」です。自らの直感で面白そうな企業や現象を追っかけるだけでなく、興味がなかったことでも知人にオススメされれば、食わず嫌いせずに試してみることで、思いがけない研究やビジネスのアイデアにつながったことが多いです。個人の直感よりも、むしろ知人の紹介の方が、自分の基準ではけして選ばないような、今まで知らなかった異種の情報を得ることが多く、新しい発想には有効に思います。

 企業に勤めていた頃から、好奇心のアンテナは張り巡らせていました。面白そうだと思ったセミナーを見つけると、上司に説明して、どうにか許可をもらい、時間の許す限り出かけたものです。あまりに回数が多いので、講師の方に顔を覚えられてしまいました。それが縁で親しくなり、新しい出会いを紹介されたり、何かの時にはアドバイスを得たりと、今でもいい影響を及ぼしていると思います。

 人脈に恵まれていたと思いますが、ゼミ生と訪問すると、無料で聞いては申し訳ないと思うほどためになる意見やアイデアを惜しみなく出してくれるクリエーターもいます。最初は気後れしていたゼミ生たちも、自分たちとは全く異なる視点の斬新なアイデアをもらい、その価値が分かってからは行きたがるようになってきました。

 先日ゼミ生と聞いた話で面白かったのは、優れたデジタルアート作品を生み出しているteamLab(チームラボ)の社員旅行でのイベントです。用意された材料だけでモーター仕掛けの機械を作り、多く得点をあげたチームが優勝というルールで、チーム対抗の簡易なロボコン(ロボットコンテスト)をしたそうです。遊びを通じてチームの団結力や発想力を駆使し、課題を解決する方法を模索したエピソードは、学生にもいい刺激になったでしょう。早速、ゼミ生は新たなロボコンのアイデアを考え、春のゼミ合宿で実施するよう動いています。

 インターネットの普及で、ユーザー同士で自由に交流できる機会が格段に広がりました。ユーザーそれぞれがもつ多様な情報が上手く組み合わさって、創発が起こり、新しい発想のイノベーションも生まれています。これは、まさに研究テーマであるユーザー・イノベーションや共創といえる現象で、異種の情報の組み合わせがカギです。私が知的好奇心を大切に思うのは、個人の頭の中でも、革新的アイデアを生み出すためには、新しい異種の情報との組み合わせが不可欠だと実感しているからかもしれません。これからも知的好奇心をもって、新たな異種の知識を探求していきます。

西川 英彦(にしかわ ひでひこ)教授

法政大学 経営学部 市場経営学科

1962年兵庫県生まれ。
同志社大学工学部電子工学科卒業。神戸大学大学院経営学研究科市場科学専攻博士後期課程修了、商学博士。ワールドにて経営企画などを担当し、ムジ・ネット取締役を経て、立命館大学経営学部にて助教授、准教授、教授を歴任。2010年より本学経営学部兼大学院経営学研究科の教授に着任。現在に至る。日本マーケティング学会常任理事。

「人脈とネットを生かして消費者目線での商品開発を推進」『法政』第44巻第1号、2017年1月1日、pp.16-17

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