column 2012.1.12

「クラウドソーシング ― ユーザーの多様性カギ:アゲハ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 「三人寄れば文殊の知恵」。3人どころでなく、群衆が集まることで、イノベーションが生まれている。それは「クラウドソーシング」と呼ばれる。こうした現象は、フェイスブックなどのソーシャルメディアを利用すれば、さらに生まれやすくなる可能性がある。その好例が、クラウドソーシングの実践や支援を行うアゲハ(東京・港)だ。

 アゲハはソフトバンクグループのモバイルアクセサリーブランド「ソフトバンクセレクション」でスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けの開発を支援している。フェイスブックで、ユーザーに聞きながら、開発を進めてきた=写真。その結果、女性のスマホ・アクセサリーのニーズが明確になり、今年の春の発売に向けて、現在開発中である。

 そもそもアゲハは、丸井などで販売する自社ブランドのバッグ「オリヒメ」や昨年12月に発売されたハクバ写真産業(東京・墨田)のカメラカバー「カメラシュシュ」などを、ユーザー参加型で開発してきた。

 アゲハは、これまで一般的であった自社サイトを通しての開発では、意見を言うための登録や、開発状況を知るためのメルマガ購読やサイト訪問などのコミュニケーションの負荷があり、一部のコアなユーザーの意見に集中しやすいという問題があったという。だが、フェイスブックの利用は、ユーザーは新たな登録の手間もなく、簡単に状況を知ることができ、コミュニケーションのハードルが下がり、多様なユーザーの意見を生かした開発が可能という。

 実は、こうした指摘は、研究の世界でも裏付けられている。クラウドソーシングが成果をあげるには、ユーザーの「多様性」がカギだといわれている。異なる考え方の人であれば、問題解決の手法が異なり、優れた解決ができる可能性が高まるという。

 だが、そもそもブランド商品の開発の場合、優れた解決であっても、ブランドに対する考えが異なれば、ユーザー間の意見がまとまらず、ユーザーが離反する可能性もある。そのため、同社のように開発プロセスをオープンにしつつ、決めた理由を明らかにし、共感を得ることが重要となるだろう。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012) 「クラウドソーシング ― ユーザーの多様性カギ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年1月12日付け、p.9.