column 2012.2.2

「空間デザイン ― 工夫次第で会話活発に:クラブメッド(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 企業において、社員同士のコミュニケーションが重要であることは、誰しも異論がないだろう。だが、どうすればコミュニケーションを活発にできるのだろうか。空間デザインを工夫すれば、コミュニケーションをうまく活性化できる可能性がある。その好例が、1950年に地中海で始まったリゾートホテルの「クラブメッド」である。日本の本社は東京都港区にある。

 クラブメッドでは、レストランやシアター、プールなどのパブリックスペースを中心に、放射線状に広がる形で客室やレジャー施設が配置される=イメージ図。人が集まりやすい場所にパブリックスペースがあり、それらは基本的に開放的な空間で外からものぞけるような設計だ。一緒に来た仲間や、ここで知り合った人を見つけて、コミュニケーションをとりやすい。

 そもそもクラブメッドは価格に、飲食代や利用料が全て含まれており、気軽にバーやシアターを利用しやすい。さらに、レストランのテーブルは、知らない人と一緒に食べてコミュニケーションが生まれやすいように、8人掛けが中心となっている。その場で、客同士を紹介してコミュニケーションをつなぐ役割をはたす同社でG・O(ジーオー)と呼ばれるスタッフの存在も大きい。

 一方、子供を預かるミニクラブは、パブリックスペースから離れた場所に位置する。その多くは、専用プールも持つ。親のために預かるというだけでなく、子供同士で新たなコミュニケーションをとり、バカンスを楽しむというコンセプトだ。こうして、大人も子供もそれぞれの時間を過ごせる。クラブメッドでは、このように空間デザインで、コミュニケーションを活性化させている。

 企業においても、空間デザインを工夫すれば、社員間のコミュニケーションを活性化する可能性がある。だが、留意しなければいけないのは、空間デザインによって、人々の動きや流れを無理やりにコントロールすべきではないということだ。自然に人々の動きなどに影響を与えて、コミュニケーションの活性化につなげるという工夫が肝要である。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「空間デザイン ― 工夫次第で会話活発に(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年2月2日付け、p.9.