column 2012.6.14

「プラレールアドバンス ― 青いレールが新市場創る(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 製品をプラットフォーム化(基盤製品化)すれば、市場創造の可能性をもつ。その好例が、昨年10月に発売されたタカラトミーの「プラレールアドバンス」=写真=である。

 プラレールはデフォルメ(変形)されたデザインの鉄道車両、青いレール、踏切などの情景部品が特徴の3~5歳の男児向け玩具。1959年の発売以来、男児のいる家庭では定番的に見られる同社の代表的商品である。青いレールは親子で受け継がれることも多いという。まさに、家庭のレールは同社にとっての「資産」であるともいえる。

 この資産をプラットフォームとした新たな市場創造が検討された。その一つがプラレールアドバンスで、従来1台の車両が使うレールの2本の溝を、片側の溝だけを使って複線として2台の車両を走らせることが考えられた。さらに、顧客対象として、プラレールを卒業した小学校低学年と、かつて遊んだことのある30、40代の大人という2つの顧客層が想定された。そのため1年半かけて、2台の車両が複線ですれ違えるように幅19ミリメートルのサイズで、車両番号やドア枠をつけるなどデザインもよりリアルさが追求され、前後進できるように開発された。

 本物志向が評価され、出足は快調で発売後早々に売り切れた。だが、タイの洪水の影響で自社工場の稼働が休止し、昨年末に在庫がなくなる不測の事態がおこった。中国やベトナムの協力工場で代替生産し、安定的に出荷できる体制が整い今年4月から販売が再開された。現在、売り上げは計画比20%増と好調だ。

 単に資産をプラットフォーム化するだけでは、うまくいかないかもしれない。同社にはレールを縦に使ったモノレールがあった。これはアドバンスと同様に画期的な製品だが、大きな市場には育たなかった。直線レールはそのまま使用できるが、曲線レールはモノレール専用レールが必要だ。さらに、従来品と同じ幼児が対象であった。アドバンスの事例からは、プラットフォーム化で新しい市場を創造するには、顧客の保有する多くの資産が共通利用できることと同時に、新たなターゲットのニーズへの対応がカギだといえる。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「プラレールアドバンス ― 青いレールが新市場創る(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年6月14日付け、p.9