column 2012.10.4

「無料通話・メールアプリ ― 14ヵ月で利用者6000万人:LINE(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 高いリテラシー(技術知識や操作能力など)の人から狙う。今までにない製品やサービスを浸透させ新市場を創造する際の定石といえるだろう。だが逆に、高いリテラシーをもたない人を狙うことが新市場を生み出すことがあり得るのだ。

 その好例がNHNジャパンの無料通話・メールアプリ「LINE(ライン)」だ=写真。昨年6月の公開からわずか14カ月で利用者が世界で6000万人を突破し、交流サイト(SNS)大手の米フェイスブックやツイッターを超えるスピードで成長を続ける。

 新市場の初期利用者は新しいものにリテラシーが高く、そのために一般に広がるまでには大きな溝があるともいわれる。こうした限界を意識したNHNジャパンは、高いリテラシーをもたない利用者を狙う戦略に出る。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)やそのアプリケーション(応用ソフト)の複雑な操作に慣れていない人や女性だ。

 LINEは、無料通話であればスカイプ、メールであれば携帯やスマホのメール、コミュニケーションであればツイッターやフェイスブックというように、すでに強い競合があり、サービスが際立って優れているわけではない。特徴はシンプルで単純な機能や操作であり、互いにスマホに電話番号を登録している利用者同士だけがすぐにつながることができる簡単さだ。

 こうした点は、競合のサービスを使いこなしているリテラシーの高い利用者からみれば、類似あるいは簡単すぎて機能の低いサービスとみなされる可能性も高い。しかし、普及させるために大事なことは、多くの利用者にとって使いやすいサービスであるということだ。このことは、LINEの成長が裏付けているだろう。さらにここにきて、高いリテラシーをもつ人々もLINEを使い始めていることも重要だ。

 だが留意しなければいけないのは、簡単な機能や操作は模倣しやすく追従の可能性も高いことだ。それに対してはブランドが重要となるだろう。LINEのシンボルとなるキャラクターたちが効いてくるのは、こうした局面かもしれない。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「無料通話・メールアプリ ― 14ヵ月で利用者6000万人(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年10月4日付け、p.9.