column 2013.2.21

「『瞬足』のブランド戦略 ― 子供の願いかなえ拡大(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 願いをかなえてくれる。消費者からこう思われることは大事だ。それがブランド拡張のカギとなる可能性をもつからだ。その好例がアキレスの「瞬足」だ。

 その靴を、小学生の子供がいる親なら知らない人はいないだろう。単純に計算すると3歳から11歳の子供の2人に1人が履くことになるヒット商品だ。

 瞬足は、運動会のトラック競技で速く走ることを目的に開発された。靴底のスパイクを、右足は内側、左足は外側と左右非対称に配置し、カーブで滑らないようにしたのが特徴だ。もちろん、通学履きとしての基本機能も備えている。

 2003年の発売後爆発的に売れる。従来は実需品が中心だった市場でブランドを確立するため、いたずらに手を広げず左右非対称という特徴を守り通した。

 3~4年たって市場でブランドとして見られるようになり、左右非対称にこだわらず、跳び箱用の靴など「子供のライフスタイルを応援する靴」としてブランド拡張に着手する。ここで消費者の声が生きる。

 例えば「ダンスのしやすい靴がほしい」という依頼から新商品開発の検討が始まる。一足の靴を履きつぶしてから新しい靴を買う男児と違い、女児は通学と放課後で靴を履きわけるケースも多いため、大きな市場となる可能性をもつ。12年度から中学校でダンスが必修化されたことも追い風となった。

 ダンスで回転しやすくするため、靴底のつま先部分をスピンしやすいよう球面にすることを考えた。バスケットボール用ではターンしやいようにかかとを球面にした靴があり、それがヒントとなった。さらに女児に人気のあるファッションを調査し、その色や柄に合わせた。12年1月に「瞬足ダンス」=写真=を発売すると好調な滑り出し。こうして新しい分野にブランドを拡張している。

 現在は子供用だけでなく幼児から大人用にまで広がる。だが、幼児用は子供靴の手前、大人用は親の世代というように、あくまでも中心顧客層は子供だ。だからこそ、子供は願いを届けようとするのだろう。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2013)「「瞬足」のブランド戦略 ― 子供の願いかなえ拡大(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年2月21日付け、p.9.