column 2013.9.12

「ネットコミュニケーション ― 制限が新市場を創造:アットコスメ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 ユーザー同士のコミュニケーションを制限することが、ネットコミュニティーの新市場を創造する。フェイスブックなどのソーシャルメディアをイメージすると、違和感を覚えるかもしれない。だが、このような仕組みの好例が、アイスタイルが運営する化粧品の口コミサイト「アットコスメ」だ。

 サイトには、国内で販売されているほぼ全ての化粧品、約22万点を超える商品情報と、累計約1080万件の口コミを掲載。20~30歳代女性の3人のうち1人が利用する日本最大の美容のネットコミュニティーだ。

 化粧品はカテゴリー別だけでなく、お悩み別(毛穴、ニキビ、美白、アンチエイジング)、肌質別(脂性肌、乾燥肌、混合肌、敏感肌)、年代別(20歳代前半、20歳代後半、30歳代前半、30歳代後半、40歳代)、成分別(ビタミンC、レチノール、フルーツ酸、コラーゲン)などで、人気ランキングを確認できる。さらに、オリジナル商品の企画に参加したり、スキンケアやメイクについての疑問を質問することもできる。

 だが、口コミでは、ユーザー同士の意見交換を求めてはいない。「誰かに批判されるかもしれない」と思うことは、ユーザーが口コミを投稿しようとする気持ちを阻害する可能性があるからだ。

 そもそも、肌質や年齢はもちろん、使用状況によって、化粧品に対する評価は異なる可能性がある。だからこそ、多様な使用者の評価が必要であり、口コミのしやすさが重要となる。

 こうして集まった多様なユーザーによる口コミのデータが市場を創造する。アイスタイルは、そのデータベースを生かして、化粧品メーカーなどのマーケティング支援サービスや、その声を生かした実際のコスメ店舗まで展開している。

 だが、口コミにコミュニケーションが全く不要なわけではない。アットコスメでは、ほかのユーザーの投稿に感謝を示す「ありがとう◇」ボタンを用意している。つまり、口コミへのモチベーションを上げる、弱いがポジティブなコミュニケーションは存在する。コミュニケーションのうまい制限が、ネットコミュニティーを活性化するのだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2013)「ネットコミュニケーション ― 制限が新市場を創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年9月12日付け、p.9.