column 2013.10.3

「ジェットスター ― LCC連鎖する市場創出(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 新市場が新たな市場創出を連鎖する。その好例が、格安航空会社(LCC=ロー・コスト・キャリア)と呼ばれる航空ビジネスだ。代表例の一つが、ジェットスター・ジャパンである。

 同社によると、欧米における他社の実績では、「LCCが就航したら、その利用者の30%が大手航空からの代替、70%が新規需要」(藤岡秀多取締役)という。同社の輸送旅客数は、昨年7月の就航から220万人を超える。拠点の成田空港では、国内旅客が80%も増加した。低価格な旅行手段が、新たな観光需要を生み出した形だ。

 さらに、低コストを実現するための仕掛けが新市場を創造する。ひとつは、出発時間帯など、需給に応じて料金が異なる仕組みだ。例えば、成田―関西線では、早朝便は3290円と最も安い。

 それが、周辺の新たな市場創造に連鎖する。東京から片道900円の成田空港への低価格シャトルバスが生まれた。それだけでなく、前泊しても総額コストが下がるため周辺ホテルの需要と、ホテルへの深夜便シャトルバスも誕生した。

 これらはジェットスターの利用者を増やすことにもなる。このように生まれた新しいビジネスは補完しつつ、互いを強化する。

 もうひとつは、シンプルな仕組みが、ビジネスを見直し、新市場の可能性をもつ。ネット購買や、チェックインなど最先端技術の活用、単一クラスという仕組みが、空港施設のあり方にアイデアをもたらす。

 例えば成田空港のLCC暫定施設では、ローコストにするために、天井をなくし、ラウンジなど豪華な施設もなく、簡素である=写真。ジェットスターの藤岡取締役は「前泊を意識した簡易に休めるネットカフェのような施設を設けるとよいのでは」と指摘する。今まで見過ごしていたような新しい旅行のスタイルを生みだす可能性をもつのだ。

 こうした現象は、何も航空ビジネスに限ったわけではない。皆さんの企業の周りにもありえるだろう。そのためには、事例でみたように、連鎖を促進する周辺市場との共創と、変化を見過ごさない創造的視点が不可欠だ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2013)「ジェットスター ― LCC連鎖する市場創出(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年10月3日付け、p.9.