column 2014.2.20

「専門的アイデア ― 途上国の物流改善に一役:tranSMS(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 専門的アイデアが、発展途上国のビジネスを改善し、新市場創造の可能性を広げる。その好例が、仕事で身につけた知識や技術をボランティア活動に生かす「プロボノ」の任意団体「tranSMS」(瀬戸義章代表)による、スマートフォン(スマホ)のアプリを活用した東ティモールでの物流改善の取り組みだ。

 東ティモールでは、首都ディリと、農村部との物流は活発ではない。道が悪く大型トラックが通れないことや、運転手の人件費の高さ、車両の少なさ、鉄道がないためだ。運搬にはトラックのチャーターが必要だが、1日の料金は農民の月収の約7倍になるという。

 トラックが農村に来てないわけではない。日用雑貨店に荷物を届けるために訪れている。だが、帰りは空荷だった。そこで、物流の専門知識を持つ瀬戸代表は、「帰りのトラックに荷物を積められれば」と考えた。その実現のためには、「運送業者と農民を結ぶネットワークがない」、「運送に計画性がなく、行き当たりばったり」という課題解決の必要があった。

 考えたのは運送業者が農民に運送品の「ご用聞き」をできる仕組み。着目したのは普及率4割を超える携帯電話だ。ただ、農村部ではインターネットの接続環境がなく、携帯での通話では料金もかさむ。ルートや村ごとに、携帯のSMS(ショート・メッセージ・サービス)で同時通報できるアプリを開発した=写真。

 昨年、2地域の運送業者を中心に取り組みを開始。各100人程の農民がネットワーク化された。その結果、農作物や家畜などが運ばれ、人々の交通手段にもなった。さらに、運送業者がコーヒー豆を買い上げ、首都で販売するという商売も生まれた。

 だが実は、アプリは使われていなかった。電話番号の登録手順が難しかったため、個別の電話での対応だったのだ。つまりカギを握ったのは「ネットワークして物流を効率化する」という専門的アイデアだった。現在、アプリは改善され、取り組みは4地域に広がる。さらに東ティモール大の学生もプロジェクトに参加した。専門知識と現地知識の共創による、一段の発展が期待される。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2014)「専門的アイデア ― 途上国の物流改善に一役(西川英彦の目)」『日経産業新聞』 2014年2月20日付け、p.9.