column 2014.1.30

「ルックおふろの防カビくん煙剤 ― 買収技術で新たな価値(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 他社から買い取った技術と、自社技術との組み合わせ。それが、革新的な新市場創造につながる可能性がある。その好例が、ライオンの防カビ剤「ルック おふろの防カビくん煙剤」だ。2012年9月の発売以来、累計700万個も販売するヒット商品である。同社によると、近年縮小傾向にあったカビ取り剤市場を活性化し拡大させた立役者だ。

 この商品は、「ルック きれいのミスト トイレ用」の除菌機能を持つ「銀イオン」と、虫退治用薫煙剤「バルサン」の薫煙剤を組み合わせることで生まれた。その出発点は、04年に中外製薬から買い取ったバルサンの薫煙技術を拡大できないか、という着想にさかのぼる。

 当初は、気化して散布する除菌成分を想定していたが、安全上の問題から使用できず、試行錯誤の末に、銀イオンにたどり着いた。薫煙の勢いで銀イオンを飛ばすことで、風呂場全体を一気に除菌することが可能となった。まさに、合理的な組み合わせとなったのだ。

 2つの技術が組み合わさったことで、さらに大きな効果が生まれる。人の手が届かない天井にまで、除菌成分を行き渡らせることができ、目に見えないクロカビを除菌できるようになったのだ。これまで、いくら見えるカビを掃除しても、またカビが発生していたのは、こうした天井のクロカビが浴室に胞子をばらまいていたためだ。

 加えて、従来カビ取り剤を使っていなかった新しい消費者にも訴求できるようになった。普段から汚れを落としたり、換気をよくして乾燥させたりと、風呂場をマメに掃除していた消費者である。こうした消費者は、カビ取り剤を使用しないが、掃除を負担には感じていたのだ。新しい価値を提供し、市場創造につながった。

 こうした相乗効果は、最初から分かっていたわけではない。今回示したケースのような他社からの技術だけでなく、自社技術同士においても、意外な組み合わせに見えるものでも、試していく姿勢が重要となるだろう。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2014)「ルックおふろの防カビくん煙剤 ― 買収技術で新たな価値(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2014年1月30日付け、p.9.