column 2010.10.14

「ユニ・チャームの挑戦 ― 顧客を変え新市場創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 

 対象顧客を決めることはマーケティングの第一歩だ。一度決めるとすべての事業活動の前提となるので、動かしにくい。だが顧客を変えれば、新市場を創造する可能性も生まれる。衛生用品大手のユニ・チャームは、そんな挑戦を続けているメーカーの一つだ。

 同社は子会社を通じ、介護用品「ヒューマニー」=写真=を拡販中。日立製作所と共同開発し、昨年発売した。センサー付き専用パッドを本体のチューブとつなげて使い、センサーが尿を検知するとポンプが吸い取る。パッドは表面をほぼ乾いた状態に保て、1日1度をめどに換えればよい。

 在宅介護では夜のおむつ交換が睡眠不足など介護する人の大きな負担になる。交換の手間を省こうと従来の紙おむつも吸水性を上げる改良が進むが、夜間交換は減っていないという。

 要介護者の不快感を察し、夜中に起きる。介護者の負担を考え、おむつ交換を言い出せない――ヒューマニーは交換する側/される側の双方が抱える悩みを一挙に解決。旅行に持って行く利用者もいるという。

 1992年に投入した「ムーニーマン」はベビー用紙おむつ市場で同社のシェア首位を不動にした。立ったままはかせるパンツタイプ。従来品は寝かせてはかせることを前提に、サイドをテープで留める形状(テープタイプ)だった。

 同社は動き回る1歳児を寝かせて紙おむつを換えるのに母親が苦労している姿を見て、はかせやすいタイプの可能性に気づいた。従来品は交換される側のモレやムレによる不快感を除くことを追求してきたが、交換する側の潜在ニーズまでは計算していなかった。

 大人用紙おむつでも、「ライフリーリハビリ用パンツ」を95年に発売。高齢者が自らオムツを上げ下げし、トイレを使えるようにした。この製品も「寝たきりになりたくない」という潜在ニーズをくみ取った。従来のテープタイプは交換する側に都合がよかったが、交換される側の高齢者が自分ではけなかった。

 「当社の顧客は明白。変える必要はない」との考え方もあろうが、固定観念は新たな発見を阻む。柔軟な視点を持つことは重要だ。(法政大学経営学部教授)

にしかわ・ひでひこ 服や雑貨のマーケティングを経験。立命館大学経営学部教授などを経て4月から現職。

西川英彦(2010)「ユニ・チャームの挑戦 ― 顧客を変え新市場創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』 2010年10月14日付け、 p.9.