column 2016.9.29

「メイカーフェアに思う ― 多様な人の交流、創造に(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】東京ビッグサイトで開かれたメイカーフェアトウキョウ(オライリー・ジャパン提供)

【図・写真】東京ビッグサイトで開かれたメイカーフェアトウキョウ(オライリー・ジャパン提供)

 多様な人材が交流する場所がイノベーションを促進する可能性をもつ。その好例が、米オライリーの日本法人、オライリー・ジャパン(東京・新宿)が主催する「メイカーフェアトウキョウ」のケースだ。

 ものづくりが好きな個人や企業が集う大規模なイベントで、まるで文化祭のようだ。2006年に米サンフランシスコで始まり、昨年は世界150カ所で開催され、来場者は120万人を超える。日本でも08年に始まり、今年8月、東京ビッグサイトで開催されたイベントには約400組が出展し、1万7500人が来場した。

 静岡県のきゅうり農家のWorkpilesは、ディープラーニング(深層学習)を活用して出荷の際に行う選別作業ができる自動きゅうり選果機「CUCUMBER―9」を開発し、出品した。

 「出展者は、作りたいだけでなく、作ったモノを通じてコミュニケーションをしたいという欲求がある。作品を見てもらい、拘った部分への評価や、アドバイスをもらいたいと思っている」とオライリー・ジャパンの田村英男MAKE編集長は言う。

 古い扇風機やブラウン菅を使ってオリジナル楽器を出展するアーティストの和田永氏は、エレクトロニクスの知識はあったが、開発に行き詰まっていた。会場で家電メーカーのエンジニアからアドバイスを得て、一気に解決し作品ができあがったという。出展者も、来場者も多様な技術の知識を持つ人が多い。

 さらには、出展の対象は自作の作品だけでなく、物を作るための素材や部品・道具、ソフトウエア、サービスなど、個人がモノを作ることに関連した活動は全て含まれる。ものづくりをサポートする多段階の人々が集まることとなる。

 ここで出会った同士が、意気投合して、新しいプロジェクトを起こすこともある。スライムを触ったり、変形させたりすることで音が変わるスライムシンセサイザーを出展する、佐々木有美さんとDoritaさんが、まさにそうだ。

 このように出展者同士、もしくは出展者と来場者の出会いの場となっている。人がひしめき合うイベント会場での出会いが新たなイノベーションを促進する。

 多様な、しかも多段階の人々が交流できることがカギであろう。近年、地方や家族の出展など裾野が広がっており、新たな交流が期待される。こうした交流場所の設置は創造性を必要とする企業においても重要な場所であろう。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2016)「メイカーフェアに思う ― 多様な人の交流、創造に(西川英彦の目)」『日経産業新聞』 2016年9月29日付け、 p.15.