column 2011.1.20

「梱包考えた製品開発 ― イケア、低価格化も実現(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 マーケティングや製品開発の初期段階で、製品の梱包まで検討している経営者は少数派だろう。だが、梱包を突き詰めて考えると、新市場創造の可能性がある。その好例が家具・雑貨店「イケア」の「フラットパック」。最小サイズを追求した平らな梱包である。

 フラットパックは、まだ通販会社だった1956年当時のイケアの現場で偶然生まれた。カタログ撮影したテーブルを車に積みにくかったので、脚をはずして梱包したという。そのアイデアを他の家具にも応用し、運送費削減につながった。配送時に家具が傷むことは当時の大きな課題だったが、それも軽減できた。

 そのアイデアは、やがて製品の組み立てや倉庫からの搬出を客に委ねるセルフサービス方式の販売につながっていった。梱包のサイズも、輸送に使うパレット(荷役台)の大きさや店の倉庫棚の高さから導き出すようになった。梱包を解いたら、そのまま販売できるような工夫も加わった。そうした一連の取り組みにより、イケアでは輸送費や倉庫費、人件費の削減が可能となり、品質を落とすことなく家具の低価格化につながった。

 イケアの製品開発には、デザイナーと開発担当者に加え、梱包の専門家であるパッケージング・テクニシャンの3者が携わる。まず販売価格を設定し、デザインや機能、梱包を検討する。フラットパックを実現するために製品を分解したり、積み重ねたり、入れ子状態での包装も考える。

 積み重ねできるようデザインした「じょうろ」=写真=の例が分かりやすい。昨年は大型のソファをフラットパックにできるよう改善し買った客が自分で持ち帰れるようにした。こうして発売後もデザイナーらが工場に出向き、さらなる梱包の改善を考えるという。

 皆さんの会社でも、梱包を突き詰めてはどうだろうか。そのためには、企画・製造から販売そして使用まで一貫したシステムを作り上げることが必要。最も大事なのは、その仕組みを顧客に受け入れてもらうことだ。フラットパック自体は40年代から市場にあったアイデアだが、イケアより前にそれを体系化して自社製品に取り入れ、かつ顧客に支持された企業はなかったのである。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2011)「梱包考えた製品開発 ― イケア、低価格化も実現(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年1月20 日付け、p. 9